フイルム写真よ、さようなら#9 「カメラは、もう、買わない、だってソニーA7Sがあるから」
写真が好きか、カメラが好きか
「写真を撮ること」は「カメラを使うこと」と同義です。
「写真を撮ること」には3つの入り口があります。
いずれも写真が好き、ということになりますが、カメラはあくまで道具にしかすぎず、写真を撮る事が目的なのであれば、絶対にこのカメラでなければいけないということはありません。ところが新型のカメラが出ると、目新しい技術や機能に、「買わなきゃ!」と焦燥します。しかし!
フィルムカメラはカメラを買うのではなく、フィルムを買う事でずうっと使い続けたい名機がたくさんありました。デジタルカメラの時代になり新しいものが発売されたら買い換える。そんな消費に疲れてしまいました。しかし、ついに、デジタルカメラであっても「名機」という名にふさわしい、永遠に私たちを驚かせてくれるカメラが生まれたのです。
一眼レフよ、さようなら
2014年末、解像度8000万画素のデジタルカメラ(フェーズワン IQ180+ハッセルブラッド H1)、キャノン5Dmk3を使っていた僕はある日それらの全てを売却し1台のカメラに買い換えました。あまりに画期的な発想で作られたそのカメラはそれまでフイルムカメラをなぞらえてつくられてきたデジタルカメラの歴史どころか、カメラそして、写真史、を覆しました。
ソニーα7S(本記事ではA7Sと明記します)。ミラーレスの特性である小型化、そして電子ビューファインダー、無音撮影。解像度を欲張らない代わりに、飛び抜けた高感度撮影。一眼レフには出来ない撮影方法を可能にした歴史的なカメラです。
カメラの読み方
カメラを語る時に、画像が綺麗!自然!レンズの解像度!収差が!とか連写が!という部分を気にする方がとっても多いですが、僕は気にしません。撮影技術は練習で習得でき、画像は撮影後にいくらでも処理できるからです。解像度は雑誌の見開き程度であればどのカメラでとっても比較して見なければ微差に止まります。カメラを知る上で数字の仕様はあくまで参考であって、使い勝手は人によって異なる大前提があります。
カメラやレンズの精度よりも、被写体の表情の方が圧倒的に大切です。スペックよりも一目惚れをするカメラ。そういうカメラはずっと愛せます。店員さんに仲人されたカメラではなく、なぜ一目惚れをしたのか撮るたびに理解していく。写真もコミュニケーションですが、カメラともコミュニケーションできることは写真も、撮影もより有意義にしてくれるのですから。
体にやさしいカメラ
ミラーレスであるA7Sの最大の特性は小さいことです。小さい、つまり軽い。カメラは手に持たなければいけない。その上で大きい、重いことは体へ負担をかけます。当たり前ですが、その負担が軽いほど、撮影に集中できるのです。もう重いカメラだから、良い、という時代は終わりました。
小さなバッテリー、小さな負担
(初代)A7シリーズでよく指摘されるバッテリーの使用時間の短さ。僕の撮影ペースでは満充電であれば一日もつので問題はありませんが、逆に指摘したいのはバッテリーが大きいと本体も大きく重くなってしまうという点。写真を手持ちで撮る限り手首に、またストラップを通じて肩や首にかかり続ける重量。この肉体疲労が写真質に影響してきます。
「弁当箱」か、「おにぎり」か
小さいバッテリーであれば場所を問わないので、数を持ち、バッグや(特にパンツの)ポケットに入れておくことで手の負担を気にせず携帯することができます。
大きな弁当を1つ持つのではなく、おにぎりにして小分けにすることで携帯しやすい。小さなバッテリーの方が「手、体への負担」という点からは融通が効くのです。(写真左A7IIバッテリー、写真右A7Sバッテリー)
小さいこと
小型バッテリーの恩恵もあり、A7シリーズのグリップは薄いです。カメラのグリップはその逞しさを強調するような盛り上がったものが多いですが、バッテリーを格納し、掴みやすい最小限の大きなに留められています。初代Eマウントのツァイスレンズシリーズは小さいものが多いです。「明るさ」よりもまず「小ささ」を優先していたことが伺えます。
「握る」から「添える」へ
カメラを握ると手のひらそして腕に力が入ります。しかし、A7Sのボディを持ってみると軽いので握る必要がないことに気づきます。指を添える感覚。体を緊張させてしまう、大げさなグリップは必要なくなるのです。まるで茶道の所作のように上品にカメラを構えることができます。
軽い、だからブレない
小さいレンズ群はもともと本体重量が軽いボディとの重量バランスに優れています。特に35mmや50mmはレンズ側の重量が特に軽く握るというよりも指先で触れるという感覚でカメラを持つことができます。
このレンズ群を使用するに限っては高感度の助けもありボディの手ぶれ補正がなくても問題なく、さらにその分さらにボディを小さくできたのです。
万能なシャッターボタン
しかしその進化の過程で失われていく大発明もあります。7Sのシャッターボタンはカメラの上部に付いています。これはフイルムカメラによくみた位置です。一眼レフがオートフォーカスになるくらいから、グリップの上に引っ越しをしたのに、なぜ?あえて昔の位置に戻したのでしょうか。
デザインと機能
グリップには人差し指で使うダイヤルを配置。その分天面には小さな面積に2つのダイヤルと2つのボタンが狭くもなく無駄に広くもなく配置されています。上からみると、ダイヤルとボタン、そしてグリップ上のダイヤルが、とても整理されていることが伺えます。
親指でも、人差し指でも
配置だけではありません。せっかくこんなにも軽いのだから、カメラを持ち上げたり、あるいは、下げたり、いろいろなアングルから撮りたくなるものです。
そんな時にも低いアングルでは親指が届きやすく、そして目のアングルでも人差し指が肘からまっすぐに届き、
重心を手のひら、そして肘の関節でしっかり支えられるようにシャッターボタンとボディ、レンズのバランス設計が配慮されており、結果シャッターボタンが負担なく押しやすい配置になっています。
撮影にやさしい
体にやさしいばかりでなく、いままで専門的な技術や、経験値がなければ使いこなせなかった部分をミラーレスカメラは容易にしてくれました。難しい撮影も容易にしてくれる頼れる存在です。
写真史上初の無音撮影
海外のiPhoneはマナーモードにするとシャッター音がしません(シャッター音がするのは日本と韓国のみ)。ミラーレスカメラのボディ内部では撮影時に駆動する部分がなくてよいので、完全な無音撮影をすることができます。盗撮ですか?なんて笑われますが、シャッター音は被写体を追い込んでしまいます。あるいは音楽会などの静かな場所での撮影、そんな撮影者ばかりが心地よいシャッター音害を避けまるでそこにカメラが介在しないかのような「自然な」写真を撮る事ができます。
照明よ、さようなら。
このカメラを店頭で見た時に、一緒に置いてあった写真の作例は夜の競馬場を疾走する馬と蹴散らした砂が空中で静止しているものでした。みたことのない写真に震えました。このカメラがあればなんでも撮れる、と。最高感度は約41万。文字で見てもイマイチ感じ辛い高感度撮影の力。今回は夜に雨を止める試写をしてみました。
感度40万だとシャッタースピードは1/5000秒。夜の雨が止まっています。感度ノイズは多め。僕はデジタルノイズが多い写真が好きです。
そして感度10万だとシャッタースピードは1/1000秒。こちらも同様に雨が止まっています。いままで照明がないと撮影できなかった写真、そして目でも見えなかった写真を撮ることができるのがA7sならではの強みです。
画像確認よ、さようなら
電子ビューファインダーと呼ぶとなんだか小難しい響きがしますが、カメラの背面のディスプレイと同じ映像をファインダーの中でも見ることができます。
一枚写真をとったら、撮影画像を確認。そんな風景をよく見かけますが、被写体とのリズムが途絶えてしまいまたゼロスタートになってしまいます。そんなコミュニケーションを円滑にしてくれる電子ビューファインダー。ビデオやスマホでは当たり前のことを当たり前に。これもミラーレスならではの機構です。
一旦、まとめ!
長い文章にお付き合いくださりありがとうございます!さらなる応用編の前に、ちょっとここまでをまとめたいと思います。
一体、画像以外のことにこんなに語れるカメラ、、、、一体何台あるでしょうか。カメラ、、、、一体何台あるでしょうか。
さて、ここからは、応用編です!
荷物が少ないこと、軽いことは、撮影への体力と集中力の確保だけでなく、少ない選択肢からの応用力、つまり考えることを促しより楽しい撮影を行うことができます。とにかく軽く、少なく、面倒くさがりやの鈴木ならではちょっと変わったアイディアをご提案いたします。ちょっと専門用語が増えてしまう点ご勘弁ください!
レンズじゃなくて、アイディアで解決
標準レンズさえあれば。写真界では定説です。なぜなら?一番見た目に近い範囲と写りをするから。でもそれでは撮影が簡単すぎる。なので僕はちょっとひねくれて少しだけ短い35mmの広角レンズを使っています。
画角は被写体までの距離で遠近撮ることができますが、近距離での撮影をするにはマクロレンズが必要になる、というのが一般的な考え方です。交換レンズは文字通り交換するための時間が必要になり、使うかどうかわからないのに携帯しないといけません、その軽減のため同様の機能があるクローズアップフィルターをポケットに携帯しています。
センサーの切り替えでズームをする
とはいえ、出先で究極的な状況になってしまった時(たとえばポートレイトをしっかり撮らなきゃいけない時)の必殺技として、ボディの設定でフルサイズセンサーをAPS-Cサイズ撮影に切り替える方法があります。約1.6倍のズームをすることができます。解像度が落ちる懸念をする方もいらっしゃいますが、解像度は出力先あってのこと。ディスプレイ上での使用であれば、問題ないと考えています。
フルサイズ使用だと35mmはこのくらいの広さ(in 鈴木心写真館)。
APS-C使用だと標準レンズといわれる50mm位の画角にすることができます。
錯覚的に焦点距離を近づけることもできるので、トリミングのことをかんがえなくてよいので撮影することに集中することができます。
最強で最シンプルな、カメラストラップ
僕はカメラストラップとレンズキャップを使用しません。撮影までのタイムラグがストレスになるからです。このスタイルで10年以上来ていますが、レンズが気づついたことはありません。レンズはすこし引っ込んだところにあるので傷がつくというのはよっぽどの状況なのかもしれません。
どうして、両手を使いたい時。ストラップをつけることがありますが、小さなカメラを使用しているので、わがままを言いたくなってしまいます。絶対必須要素は下記4点。
4はカメラが逆さに付けられることで、カメラを手が捕まえやすくなります。意外かもしれませんが、カメラは逆さに吊ってある方が掴みやすいのです。上記すべての条件を叶える単一の商品はありませんでしたが、2つの商品を組み合わせることが実現できました。
ABITAXのアジャスタブルストラップは、日本を代表するプロダクトデザイナーの山口和馬さんのプライベートブランド。MoMAデザインストアでも取り扱いのある機能性とデザインを究極まで精錬したプロダクトを販売しています。商品名どおり、とんでもない速さで長さを変えることができます。カメラ用途のみではなく様々な使い方を前提としている中にカメラストラップも考慮されているので、野暮ったいカメラグッツとは一線を画す存在です。
これにRICOH THETA用のストラップアタッチメントを組み合わせることで、究極にシンプルで丈夫で、使いやすいカメラストラップの完成です。
テザー撮影のお供 テザーツールスUSB-Cケーブル
Mac Bookでのテザー撮影での面倒な点は、カメラ側のUSB-micro端子をパソコン側のUSB-C端子に必ず変換しないといけないこと。データ転送には問題ありませんが、道具が増えるのはあまり嬉しくありません。テザー撮影のことならテザーツールス。心強いメーカーです。
テザー撮影を考慮しているので、ケーブルの硬さや丈夫さ、現場で目立つ色、そしてケーブル長。ノイズの影響からUSBケーブルは2、3メートルまでの使用が推奨されているためそれを超えるケーブルをましてや、USB-microからUSB-Cの端子があるものはこれが唯一と言ってよいでしょう。
カメラを使いたいだけ? 写真を撮りたいだけ?
本当に良いカメラってなんだろう?カメラの向こう側にいる、カメラを作った人たちの思いを受け取れるカメラがある。説明を聞かなくっても、使っていたら滲み出てくる熱量。
僕が常々カメラに求めていたものは、
実はA7Sはこのどれも満たしていない笑。17年、写真を続け人一倍カメラを触ってきたはずですが、そんなカメラ観と同時に、写真観をひっくり返してくれた唯一無二の存在。このカメラの企画が生まれ、そして僕らの手に届くまでにどんな挑戦があったか、僕には知るよしもありません。でも、僕はあったことすらない、この開発に関わったたくさんの人々の熱量を、大きな声でみんなに伝えたいと思います。
良い写真は、伝わる写真です。良いカメラも同時に伝えるカメラです。それは開発者たちの覚悟をカメラの使用者に伝えるカメラ。その背景があるからこそ、撮影者は、撮影、という一歩を踏み出すことができるのです。それを感じることができなければ、きっとあなたの思いを他者に伝えることもできないでしょう。
ここがもっと、こうなったら。そんなことを言い始めてしまったら、キリがないでしょう。人間ですら欠点がない人なんていない。カメラはその人が作ったものです。だから良い部分を探しましょう。カタログには載っていない、レビューにも載っていない、温かみを、挑戦を。人間もカメラも数値じゃない。相性です。
僕はものを選ぶ時に、作った人の思いを見つめるようにしています。なぜなら?僕自身も一枚の写真にですら、彼らと同じ、思いを込めて撮りたいと思っているからです。それは仕様の数値や金額には変えられないのです。人間の才能が数値化できないように、偏差値や成績はある側面での評価であって、人間性の一部でしかない。カメラも、写真もそうやって接すると、もっともっと人間味のある体験ができる、そんな写真の面白み、を見つける機会にこの記事がお役に立てれば幸いです。
本記事の全ては鈴木心の私見であり、A7Sを使い続けてきた上での想像以外の何物でもありません。でも、もし開発スタッフに会うことができたら、意外と予想と現実はちかいのではないかと密かに期待しています。皆様のカメラ?写真ライフの参考になればと思います。