見出し画像

写真妖怪、雪の上で生まれる

ゲゲゲの鬼太郎とアシスタント時代の記憶

ゲゲゲの鬼太郎と聞いて何を想像するだろう?妖怪もそうなのだが、僕はアシスタント時代の同級生が、水木しげるさんの撮影を定期的にしていたことを思い出す。彼はロンドンに行くと言っていたが、本当に行けたのだろうか。

「やったことないことをやる」スキーと雪の魔法

やったことないことをやってみる。なーんて思いつきで、今年はスキーをしてみようと思った。知っているゲレンデが福島に一つしかないから、どこかに出かける……にしても、そうだ、サロンを頼りにしよう。みんなで一緒に行けばいいんだ、とオフ会を掛け合わせて行うスキーに行こう。全部雪のせいだ。そう、僕はだいぶスキーにゆかりのある仕事をしてきたじゃないか。

光に満ちたスキー場、地面はすべてレフ板だ

撮影じゃない機会でスキー場に行くことはなかった。だから、スキー場がこんなに広く、そして光にあふれていることにいつも驚く。地面がぜーんぶレフ板なのか……と。そして太陽がサンサンと降り注ぐ。眩しい、だけど、それが気持ちよさにつながっている。空気も、水も。

大山の呼び名と山岳信仰に宿る霊性

スキー場は無理を言って大山(だいせん)にお願いをした。小学生のときに仲の良かった友達がお土産で買ってきてくれたキーホールダーには「大山」が刻印されており、それが「だいさん」じゃなくて「だいせん」と読むことにとても驚いた。誰でもわかる感じなので、なんでそれで読まないんだ……と。一発で覚える。

恵み豊かな大きな山は、古くから信仰の対象になることが多い。大山もご多分に漏れず、山岳信仰の修行の場として、そして仏様も祀られてきた歴史がある。神仏習合、いくつもの神さまが宿る場所。見えない信仰や人の想像を超えた何か、その存在を認めずにはいられない存在感がここにはあるのだ。

スキーは修行か?重力と雪との対話

言われてみれば、スキーには修行のような要素がある。斜面を板にのって滑るだけ。ブレーキは自分の足だけ。斜面の雪のコミュニケーションを頼りに滑っていく。重力に身を任せて。しかし、力の限り削って減速もしつつ。いつも中盤から足が痛くなる。痛いのに滑る。帰る頃には、帰りたくなくなる。修行につきものは、スキーヤーズ・ハイ、なのだろうか。

妖怪とジブリ、自然と人間の対峙

帰りには米子で水木しげる記念館に寄ってもらった。ずーっと気になっていた「妖怪とは何なのか?」という自分なりの解釈を確かめるために。妖怪は精霊なんだと、ジブリのそれときっと変わらないはずだ、と。

ジブリのアニメには、かならず自然と人の対峙がある。自然を破壊する愚かな人間の一方で、愚かな人間には価値を見出すことのできない自然の霊性たち。その間に挟まれ僕たちは自然の尊さを感じる。それは水木しげるの妖怪も同じだろうと。人間の世界で説明のつかない仕業は霊性の仕業だと、ただそのキャラクターデザインが大きく違う。それだけなんじゃないかと。

水木しげるの妖怪と戦争の記憶

記念館によると、水木しげるの着想の元になったのは、地元米子の自然にあふれた環境、おばさんの妖怪話、そして何よりも兵隊として参加した大戦でのおぞましい経験だった。これは宮崎駿とも似ているところがある。戦争には参加していないものの、目の当たりにはしていて、戦争に対しての厳しい眼差しがある。その対局として争いのない世界、自然物の世界を見出すのもおかしいことじゃあない。

科学と妖怪、そして写真に宿る霊性

昨今では量子力学の研究が進み、死はないかもしれない、あるいは次元の狭間で歪みが生まれているかもしれない、など、妖怪や霊性を超えた科学的な解明が進んでいる。となると、かつてのお化けは今の科学に回収されてしまうかもしれない。でも僕たちが人間である以上、その歪みを体験すること、あるいは感じられることは機械のそれとは全く別であり、体験価値としては普遍なのだと思う。

それは、写真も同じだ。デジタルに振り切れてその向こう側にあるフィルム写真は、みんなにとって四次元空間。そのとても古く、そして新しい体験はまだ広がっていくのである。霊性と尊び、妖怪を恐れるように。


自分のゴーストに従うことで見える世界

スキーをしたい、妖怪が気になる……フィルム写真が……。そんな自分のゴーストの囁きに従うこと。それは僕たちも同じように妖怪であり、霊性であるからかもしれない。それにもかかわらず、人間である、という自称を信じ続けている。

写真妖怪が生まれる瞬間

スキーをしながら、ぼんやりと妖怪や霊性、そして人間について考える。それから数時間でまたビルに囲まれた暮らしに戻る。この妖怪タウンの生活に、写真をもってはみ出していこうかと。

写真妖怪が生まれたのであった。ンガググ。

(写真と文:鈴木 心)


フォトグラファーを育てています。

カメラが使えるなら、光も使えるようになろう|ライティング

鈴木心写真館のシンプルで実用的なライティングテクニックを3ヶ月で。人にも物にも素敵な「表情」がある。見せたいところを伝わりやすく自然に写す技術は、光と、被写体と向き合うことから始まります。

写真は撮っているけど何をしていきたいんだろう?」「自分らしい写真や仕事ってなんだろう?」というお悩みも、ワークショップにご参加いただくことで目的がはっきりと見えてくることでしょう。ご参加お待ちしております!

鈴木心写真館&やさしい写真教室 全国ツアー

撮られてみると撮ってみる、両方でたのしい写真体験を。写真撮影も写真教室も、通常より超お得にお試しいただけるイベントです!

1月は盛岡、2月は大阪徳島へおうかがいします!

(編集:しまづこうたろう)

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集