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写真がうまくなるために、なぜアートが必要か?

鈴木心写真学校では、「修学旅行」と題してオンラインサロンメンバーの有志とともに直島のアートを巡る旅に出かけてきました。アートの深い深い海を小林崇人さん( @k0bayashi_takato )がレポートしてくださいます。

右のひょっこりが小林さん。
写真:鈴木心

どこまでが作品か?

地中美術館の鑑賞を通して浮かんだ一つの疑問。

「従来の美術館は建物という容れ物が先にあり、そこに後から作品を展示するが、地中美術館は作品に合わせて建物が設計されている」ということを心さんの解説で知りました。特にモネの『睡蓮』の部屋がその端的な例です(撮影不可のため残念ながら写真なし)。

絵画を囲む特注の大理石の額、額ごと作品が埋め込まれている壁。さらに作品を最も美しく鑑賞できるよう採光や部屋のサイズまで設計されている。これらはシームレスに連続しており、不可分なのではないか。

写真:鈴木心

となると、

「作品にふれて惹起される鑑賞者の感情や体験も作品の一部なのか?」

と、頭の中で疑問がぐるぐる、思考がむくむく。作品の範囲や考察が無限に拡張していく体験を実感することができました。

この感覚や疑問はアートを解釈する上では基本中の基本かもしれないし、そのような文章を読んだことがある気もしますが、リアルに実感したのは今回が初めてでした。

写真:鈴木心

この視点で他の作品を眺めると、どの作品も同様の広がりを持っていることに改めて気付かされます。

こちらの視覚まで直接作品を拡張したかと思えば、作品を文字通り青天井にしてしまい物理的にも作品の射程をめちゃくちゃ拡張したり、とやりたい放題のジェームズタレル。

荘厳でシンプルな空間で幾何学や数学を示唆し、そこから宇宙空間や時空間まで想像をぶっ飛ばすデマリア、最小限の要素を置くことでその周囲の空間全てを作品化してしまう李禹煥、空間的な広がりと内面への潜航を促す豊島美術館、etc。

偉大な作品とは鑑賞した際の体験や思考の広がる余地が広いものを指す。とっつきづらかった現代美術が少し身近に感じられました。

写真:鈴木心

なぜ作品はリアルである必要があるのか?

アート作品の価値は作品から広がる無限の想像にある、と腹落ちした次に浮かんだこの疑問。

鑑賞者の想像を広げることが現代アートの本質だとするなら、わざわざ具体的、物理的な作品をつくる必要があるのか?

コンセプチュアルアートの核はその企画書にあると、心さんが以前おっしゃっていましたが、だったら企画書の時点で作品の完成としても良いのではないか。芸術家は全員作家でいいじゃん。文字が嫌なら打ち込み音楽でも、CGでも、VR空間内でも作品制作すればいいじゃん、という疑問が湧きました。

写真:鈴木心

一方で、この疑問に対して本能的にNOと答えている自分がいる。その理由を改めて考えて行き着いたのが「人間がリアルな存在だから」というなんとも当たり前の答えでした。

もう少し噛み砕くと、神経科学者のアントニオ・ダマシオ氏が著作で述べているように、「人間の思考、感情は外的刺激をソースとしており、刺激なきところに感情や意識は生まれ得ない」。

人間が人間である以上、その身体というハードウェアに縛られる。だって人間だもの、みつをは正しかった。

となると、人間を最も多くのチャンネルから刺激することができるのは現実世界における具体的な作品であり、その作品を取り巻く環境、空間も作品化してしまうことが最強である。作品を屋外に置く意味が初めて理解できたのでした。

写真:鈴木心

つまるところ、「良いアート」とは。

小難しくなったので、まとめると

  1. 良いアートはその作品を契機に広がる経験や思索の射程が広く、深い。そしてそれを楽しむことがアートを鑑賞するということ

  2. 人間が身体を捨てられない以上、最も強い刺激を与えてくれる作品は現実世界の物理的存在となる。だから芸術家は現実世界に作品をわざわざつくり出している

という2点が今回の修学旅行で学んだことでした。何を当たり前のことを、といった感じも否めませんが、自身の思考でこの結論に至ることができたことに価値があるのだと信じています。

最後にこのような素晴らしい企画を立案、実行してくださったみなさん、本当にありがとうざいました。また美術館行きましょう!

写真:鈴木心

「良い写真」ってなんだろう? から写真の上達は始まる。

写真はアートの一部。ということは、見る人もたのしくなる写真とは?

鈴木心の写真がうまくなっちゃうワークショップ(愛称「写うま」)では、名作写真集を紹介しながら、あなたの写真がもっと広く深くなるカリキュラムをご用意しています。

「撮るだけがたのしい写真」の、先へ進んでみませんか?

(編集・高橋慈郎、山田友佳里)


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