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鈴木心写真館、松陰神社前の小さな旅。#13 「1mm market」

雑貨と文具の店、1mm market

松陰神社前の駅から線路沿いに少し歩くと、ガラス窓越しに見える雑貨たちが並んだ様子が心をくすぐる小さなお店、1mm marketがある。「これを買おう」と決めて訪れるわけではないのだけれど、スタッフとここに来ると「これ、写真館で使いたいね」とあれこれ欲しくなって買った小さなノートは、写真館の連絡帳になり、お手洗いにはここで買ったアロマキャンドルがある。ひっそりと、マイペースに、小さなわくわくを並べる店主の大塚さんにお話しを聞きました。

-お店はいつからやられているんですか?

大塚さん「オープンして丸5年です。」

-5年くらい前っていうと、まだ松陰神社にこんなにお店がたくさんあって賑わう前ですよね? その頃は、なぜここでお店を開こうと思ったんですか?

「それ以前にたまたま何かで来たときに、のどかさというか、商売っぽい感じがしない、それぞれが好きなことをやっている雰囲気がいいなあと感じた印象が残っていて」

-それから商店街のお店は変わっていっていると思うんですけど、そういう雰囲気は変わらないんですね。

「ずっとこのお店の中にいるから、あまり周りの変化に気がつかないんですけど(笑)。たまに歩くと知らない店が増えてるなあっていうのは思います。」

「働き方を変えたい」がきっかけに

-お店を開く前は、どんなお仕事をされていたんですか?

「ネットショップを作る会社で会社員をしていました。」

-お店をはじめようと思ったきっかけは何だったんですか?

「なんでしょう...東日本大震災とかもあって、働き方を変えたいなと思ったんです。会社員って、ネゴシエーションがすごい大事じゃないですか(笑)いろんなことを調整している間に日々が過ぎていって。そこで自分の意見を 言えるタイプだったら違ったかもしれないけど、わたしはひとの顔色とかを気にしてしまうから、結局調整ばかりで成果物がなにもない、みたいな。それで、命の危険を感じたときに「何やってるんだろう」って。」

「職場と家が遠いことにも、違和感が生まれました。何かあったときに家に帰れないっていうのはどうなんだろう、と。今は勤務時間がすごく短くなったし、通勤時間も半分になって随分楽です。今は全部が自己責任なぶん、誰かに説明する義務もないし。」

-なるほど。お店にお伺いしたときに、たまに営業されてないことがあるんですけど(笑)結構ゆったり営業されているんですか?

「あはは(笑)。今子育て中なんですよ。だから急にお迎えに来てくださいとかってこともあるし。風邪ひいたとかね。仕事と子育てのバランスは難しいですね。」

-自分の生活スタイルは時期によって変わっていくものだし、それに合わせて働き方も変えていくというのは自然なことであるはずだと思いますけど、そういう働き方はたしかに非常時にこそ実感するものかもしれないですね。

おとなの「かわいい」が買える場所

-もともと雑貨がお好きだったんですか?

そうですね。あと、ネットショップで働く前はレコード屋さんで働いていたので、これまでの仕事の経験をすべて活かせば、多分雑貨屋さんなら自分できるなって思ったのもあります。

-お店で扱うものは、どういう基準で選んでますか?

「うーん...日本の雑貨ってわりと、ターゲット層が下になっていると思うんです。30代、40代のおばさんでも、70代のおばあちゃんでも、雑貨って好きだし楽しいものだと思うんですけど、和柄に走るか、子ども向けのものかの2択になっちゃってる気がして。何歳でも持てるものを買える場所って少ないのかなって。そんな大人が持ち歩きたいと思えるシンプルなものを選ぶようにしています」

-この鉛筆削りかわいいです...こういうちょっとした文房具って確かに欲しいなあって思ったときにピンとくるものを見つけるのが難しいんですよね。機能だけを求めるなら何でもいい気はするけど、気の利いたものに出会うとテンションあがりますね。だから出会うと、すぐには必要ないかもしれないけど、買っておこうって思ってしまう。なんでだろう...雑貨って、なんかいいですよね。

「そうなんですよ。どうしても必要ではないけど、「これ欲しいな」って思ってから使い道を探してしまう(笑)。」

-あ、お子さんは何歳なんですか?

「小学1年生と、年少です。」

-こういうおしゃれな鉛筆使ってるんですか?

「学校は決まりが厳しいんですよ、柄ものはだめとか。」

-ああ、そうですよね。あと、小学校で使う鉛筆って柔らかめですよね。Bとか。

「わたしもそう思ってたんですけど...実は、子どもの学校ではHBが指定なんです。消しゴムも白で、みたいな指定があって。入るまでは、あれもこれも持っていかせようとかおもってたんですけど(笑)。」

-大人の雑貨事情もきびしいけど、子どもは子どもで自由がないものなんですね...。

-国によって雑貨に特徴とかはあるんですか?

「これはわたしも教えてもらって気がついたことなんですけど、デンマークとかは建築的なデザインが多いんです、ハードな感じですね。同じ北欧でも、フィンランドとかスウェーデンは、ネイチャーから来ているモチーフが多くて、お花とか木とかにインスパイアされているものが多いと聞いて、納得しました。」

-へええ、なるほど。流行とかあるんですか?

 「ありますねえ。動物柄とか、花柄とか。展示会にいくと、どこも同じようなものが並んでて、今はこういうのが流行ってるんだな、みたいなのはよくあります。」

ひとりで、ひとつひとつ

-お店をやっていて、どの工程が好きとかありますか? ひとりでやっていると、仕入れるものをセレクトして、実際に仕入れて、お店のレイアウト作って、接客して、販売して、経理もやって、ってなると思うんですけど。

「これいけるかもって思ったものを仕入れられたときは嬉しいですね。これぞというものに出会ってから、実際に仕入れるまでが楽しいんです。法律とか、意外といろんなハードルがあるので。仕入れてからお店に出すまでは、価格決めたりとか、ポップを書いたりとかっていうのが、ちょっと面倒だなって思います(笑)」

-そうなんですか!? いつも丁寧なポップが書いてあるなと思ってたんですけど。

「そうですか? でも、売れたら「やった!」って思います(笑)。」

-お店の商品は定期的に入れ替えるんですか? 物の総量は多くないなって思うんです。でも、来るたびに少しずつ新しいものがあって楽しいなって。仕入れ量も難しいですよね。

「基本的にはひとつひとつ売り切ったら次のものを出す感じですね。よっぽど物が溢れちゃうようだったら引くときもありますけど、基本はあるものが全部出てる感じです。」

やさしく、手軽で、ささやかな

撮影のため同行したスタッフの高木を交え「これかわいい!」と小さなお店をすみずみまで見て回る。そういえば、マスキングテープもこれといった重要な用途があるわけでもないが、見かけると気に入った柄をついつい持ち帰りたくなってしまうもののひとつ。

ボールペンやノート、ノリ、クリアファイル。機能だけならどこでも手に入るものだからこそ、お気に入りがひとつ、鞄の中にあるとうれしい。異国の色をした小さなガラスケースやトレーは「おうちにあったら素敵かも」と思ったなら、まずは買ってみれば、「何を入れよう?」と思いを巡らせる自由をくれる。いつも、同じものが、たくさん、あるお店とは違うから、出会いの直感は大切だ。

1mmにはいつだって、「ここにくれば何かに出会える」そんなわくわくが待っていてくれるから、松陰神社前に訪れたときはふらりと覗いてみて、うっかりお店がお休みなときもがっかりしないで、またの機会に。マイペースに、目的を持たない、旅をするような気持ちで。(記事:湯本愛 写真:高木亜麗)

1mm market
〒154-0017
東京都世田谷区世田谷4-13-18
TEL 050-3450-9515
平日:10:00-17:00/土祝:12:00-17:00/CLOSE:日曜

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