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鈴木心写真館、松陰神社前の小さな旅。#9 「カネサオーガニック味噌工房」

*現在は閉店しております

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米や味噌というのは、古くから日本の食卓に欠かせない存在だ。写真館でも、自分たちで米を炊き、味噌汁を作って昼食にいただくこともある。そんな写真館でいただいているのは、近所にあるこの店の米と味噌。有機農法で作られた、宮城県産の米や大豆から丁寧に手作りされた商品のみを扱っている。味噌の量り売りや手作り教室も行う。

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農家の娘に生まれて

笑顔が素敵な彼女が、この店の主。祖父の代から70年もの間、宮城県で農家を営む安部家に生まれた。「作物を収穫するために肥料を使うことで、土が駄目になってしまう。そういった危機感を持ち、自然に無理をさせない方法を」と安部家が農法を有機栽培へと切り替えたのが、今から25年前のことである。

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きっかけは、弟の誕生

「生まれた当時、弟はアトピーの酷い子どもで。母はいろいろと試行錯誤していたようなのですが、巡り巡って『食べものが体を作る』というところに行き着いたようです」そして、農作物を育てるところからスタップアップし、自分たちが収穫したもので地域の人たちと味噌を作るという活動がスタートしたのが2013年のこと。

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オーガニックは“安心のしるし”

以降、原材料も加工もオーガニックにこだわる安部家だが、特にオーガニック思考ではないという。「オーガニックを謳いたいというより、お客さまへの“安心のしるし”だと思っているんです」美味しいと思って食べていたら、偶然にもオーガニックだったと思われるのが理想だと話す。

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継がずに済んでラッキーだと思っていたはずが

物心がついた頃には、休みの度に家業を手伝っていた安部さん。「弟がいるから継がずに済むなと、ラッキーだと思っていたんです」留学経験もあり、英語を使って仕事できればと考えていた。食べものに関わる仕事がしたいという気持ちだけは漠然と持ちつつも、上京して広告代理店に就職。以降も、週末だけはファーマーズマーケットなど都内イベント出店を手伝っていた。

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祭り状態の中で偶然に出会うため、客と会えるのが一度きりになってしまうことも多かったという。「商品についてきちんと知ってもらいたいし、もっと身近に感じてもらいたい。イベントだけで終わってしまうのではなく、習慣として根付いてほしい。お客さまを支えたい」会社員としての自分の生き方に悩み始めていた時、一方でそんな思いも強くなっていた。母からのアシストもあり、加工食品の販売店オープンを考えるように。

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松陰神社前を選んだわけ

さまざまな街を見ながらも決め手がないまま一年ほどが過ぎた頃、駒澤大学でビーガンレストランを営む先輩から「松陰神社前も候補として見ていたが、良い街だった」と聞き、なんとその足で松陰神社へ向かったという。「規模感も良いし、周りの人に話したらどんどんと繋がっていっていろいろと話を聞くことができて。ここだったら、自分が店を出す想像がついた」と笑顔で話す。そして2017年、松陰神社前にこの店をオープン。

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「皆んなで支え合っている感じが良いし、相談しやすのも有難い。ご近所のお店の方と定期的に会って話したりもしています」実際に店を始め、期待は核心に変わっていた。「繋がり、大事ですよね。古くからやられている方々のことはリスペクトしていますし」また、会社員時代の同僚にパッケージデザインを依頼するなど、かつての繋がりも今に活きている。「当時の知識は全く活かせていないんですが、人との繋がりだけは大事にしています」

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消費者の声を聞ける歓び

休日には偶然立ち寄る客もいるが、タッパー片手にやってくる近所の常連客が多い。「常連の方に、子どもが昨日はお味噌汁を飲んだなんて言われると嬉しい」消費者の声をダイレクトに聞けることは、やり甲斐になっている。

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「有機のお餅はないの?というお客さまの声があり、今年から餅米の栽培も始めたんですよ」これは、生産から加工、そして安部さんの手で販売までを一貫して行っているからこそ、可能なこと。「自分の役割がわかってきました。経験を積んで、農業に関する知識も増えてきましたしね」

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親孝行のその先は

「加工品があったり、ここにお店があったりするのは、あの土地で農業をやるため」と言い切る安部さん。あの土地の恩恵を受けて農業を続けていくために、この店がどうあるべきかを常に考えている。「この店が負担となってしまうのであれば、やめる覚悟もある。すべては農業のため」一朝一夕にはいかない農業と真摯に向き合い、自分が何をすべきか思考を巡らせる。

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「親への恩返しだと思ってやっている側面もある」という安部さん。「私と弟の代となったとき、どう変わっていくのか。これは楽しみでもあります。今の規模では現実的ではないですが、海外への興味が強いのでそれと繋がるようなことも考えられたら」先祖代々受け継がれる農業への思いを、安部さんはどう自分のものへと昇華していくのか。この店の加工品を味わうとともに、見守っていきたい。(記事:末松早貴 写真:鈴木心写真館)

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カネサオーガニック味噌工房 松陰神社前
東京都世田谷区若林4-17-11(Google Map


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