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鈴木心写真館、松陰神社前の小さな旅 #10 CAFE BY & BY

松陰神社前駅から、鈴木心写真館へ向かう商店街の道すがら、外からカウンター越しに店主ミキさんの顔が見えるとやっぱりいつも寄ってしまうのは、カフェ、BY & BY。

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初めて伺ったときから、肩肘張らない彼女の笑顔に、まるで昔からの友だちみたいな気持ち。テイクアウトのドリンクが出来上がるまで、のつもりがついついカウンター席に座り込んでしまったりして、いけない、いけない! とカフェラテ片手にうきうきと写真館へ向かうのも、すっかり、週末の習慣に。

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- 今日は改めて、ミキさんのこと、お店のことをお伺いしたいと思っています。BY & BYがオープンしてからどれくらい経ちますか?

ミキさん「3月にできたばっかりなので、7ヶ月くらいです。」

- お店開きたいなあっていうのは、いつから考えていたんですか?

「お店を自分で開きたいっていうのはなんとなくずっと思ってたんですけど、具体的に考え出したのは、物件が決まる1年前くらいから…ですかね。もともと松陰神社前ではなく、もっとひとが多いところをイメージしてたんですけど(笑)偶然ここに決まりました」

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「ひとと話す仕事」を求めて

- このお店を開く前は、何をしていらっしゃったんですか?

「服飾の専門に通って、卒業してからは大手テレビ局専属の事務所でキャスターさんとかのスタイリングをする仕事をしていたんですけど、1年でそこを辞め、飲食店で働きはじめました。飲食の仕事がやりたいなあって思ってたわけでもなく、当時はコーヒーが特別好きってことでもなかったんですけど、接客がしたくて…。スタイリストって裏方じゃないですか、特にアシスタントの頃って現場に付いていっても、誰かと話すことが全然ないので、ひとと会話する仕事をしたいって思って、真っ先に思いついたのが飲食店だった、という」

- 接客がしたい、という思いではじめた飲食業とは、「これだな」っていう出会いだったんですか?

「うーん…最初に働いていたカフェダイニングがとにかく忙しいお店で、終電までに帰れるかどうか、毎日とにかく焦って働いていたんです。でも、エスプレッソマシーンがある系列店への異動があって、そこでラテアートにすごく興味が湧きました。ラテアートをちゃんと学びたいっていう気持ちでコーヒー専門店でも働きはじめてから、ちゃんとコーヒーに向き合うようになって」

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- 漠然とした「飲食業」の中でもコーヒーというものに出会ったのはラテアートがきっかけだったんですね。エスプレッソマシーンを使っていて、カフェラテが飲めるお店は、松陰神社前でもここだけだって、ミキさん、前におっしゃってましたよね。

「そうです」

- ラテアートって、お客さんとのコミュニケーションが生まれるツールですよね。

「そうなんです、テイクアウトの注文でも、見せてから蓋を閉めるようにしています。ラテアートを目的に飲むわけではないから付加価値でしかないんですけど、満足度はあがりますよね」

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等身大を、受け入れる、ひと

- このお店を半年やってみてどうですか?

「常連さんが増えましたねえ、わたし、3回くらい来てくれたら常連さんだと思ってるんで(笑)。雨の日とか、今年の夏みたいにすごく暑かったりすると、本当に人通りが少ないけど、そういうときに常連さんの顔を見ると、支えられてるなあって思います」

- このお店は、ミキさんに会いに来てるお客さんが多いんだろうなと思うんですよ。「接客がしたかった」というお話を聞いてすごく納得でした。

「私自身も、お客さんと会って話すためにここに立ってるというか。週に1回、決まった曜日にいらっしゃるお客さんもいて、自分の定休日を作るとその曜日のお客さんには会えなくなるって思うと、結局休めないんです(笑)」

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- お客さんとお話するときに、意識してることはありますか?

「なんだろう...背伸びしないことですかね。上から話さない、分からないことは分からないって言う。でも堅くないっていう感じ? って言っても特別意識しているわけじゃなくて、本当に上から話せることなんてないっていうだけなんですけど(笑)。松陰神社前って、コーヒーやってるお店がたくさんあって、中には、ものすごくコーヒーにこだわっているお店もあるじゃないですか」

- はいはい、ありますよね。

「これマイナスイメージにしかならないかもしれないんですけど...わたし、昔から何かに対して強烈な熱意っていうのがなくて。そういうお店に比べると、申し訳ないくらいコーヒーに対する知識もないんですよ。昔から何かひとつのことを極めるひとのことを、ただただ、すごいなあって思い続けていて(笑)」

- 今も、ミキさんにとってはあくまでも「接客」がこのお仕事をする上で重要なモチベーションなんですね。わたしは、何かがすっごく好きで、とことん突き詰めたときに、どこかエッジーになる部分があると思うんです。コーヒーも、ものすごくこだわりをオープンにするお店には、お客さんもこだわりがあるひとが集まりますよね。

「そうですね、たしかに」

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- このお店に、「なんかコーヒー飲みたいな」っていう気軽な気分で入れる親しみやすさを感じる理由が、今少し分かった気がします。

「ああ、本当にそうで、自分でも使い勝手がいいお店だと思ってます。きっと、一番にはなれないんですよ(笑)。でも、脇役みたいに、さりげなく誰かの生活の一部になれたら、っていう気持ち。この商店街には、とてもコーヒーにこだわりのあるお店もあるんですけど、そこの常連さんが、ここにきて『たまにはこういうのもいいなあ』って言ってて」

- あはは。

「ああ、そういう使い方って間違ってないなって気づきました」

- お客さんがそれを言えちゃう空気が、ミキさんの丸いところだなあって思います。

「そういうことが、すっごく悔しかったときもあったんです。自分なりに、こだわってなくはないんですよ(笑)。でも、今は受け入れ態勢です。こだわってないと思われるようなスタイルでやっているように見えるのを、払拭したいっていう気持ちはなくなりました」

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個性を、受け入れる、町

- そういう見え方を感じてたことも、悔しい時期もあったんですね。そこが変わったのはどうしてなんでしょう。

「『松陰神社前は、コーヒー出してるお店が多いから大変でしょう?』と言われることも多いんですけど、この商店街の他のカフェの店長さんが「カフェラテが飲みたい」っていうお客さんがいたら、『このへんでカフェラテが飲めるお店はBY & BYしかないから』って、お客さんに紹介してくれたりするんです。渋谷のカフェダイニングで働いていたときは、隣のお店のひとと店先で顔を合わせても、絶対挨拶をしない雰囲気だったので、びっくりするくらい、ここはあったかいなあと思って」

-カフェはカフェでも、いろんなスタイルの店主がいて、いろんなお店があってっていうのを、尊重しあう商店街なんですね。

「本当にそうですね。自分のスタイルは貫きつつ、お互いをライバル視はしない雰囲気があるので、大変だと思ったことはないです」

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- BY & BYは、コーヒーだけではなく、いつも期間限定のメニューがいろいろあるところも楽しいです。写真館にはコーヒーが苦手なスタッフもいるので。

「そこも使い勝手が良いポイントですね(笑)。わたしもコーヒーが好きでも、1日何杯も飲まないので...自分が好きなもの、飲みたいものをやりたくて、コーヒー以外のメニューも増えちゃいました。夏はコーヒーより冷たい炭酸が飲みたいし、最近はタピオカもはじめてみたり」

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ありのままを、受け入れる、店

最後に、「BY & BY」の名前の由来は? とお伺いすると。

「わたしの名前は『未来』と書いてミキなんです。自分の名前に関係する名前にしたいと思っていたときに、『少し先の未来』という意味の"by and by" という言葉を知って」とミキさん。

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お店の内装、ラテアート、カラフルな冷たいドリンク。たしかにどれもが、フォトジェニック。インスタグラマーが訪れることも多く、「その期待には緊張もするけど、可能な限り応えたいと思う」と笑いながら話す未来さんのお店の、本当の魅力。自身が「背伸びをしない」という未来さんとお店の空気は、どんな理由で訪れるお客さんにも、背伸びをさせない。

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わたしにとっては、毎週訪れるこの街、写真館へ向かう道。今日も、「また来週」と思う。少し先の、特別ではないけど大切な日常に、しっくりと馴染む、柔らかいお店がそこにある。きっとそんなふうにして、ここには、来るひとの数だけ、使い勝手の良さと、安心感があるのだと思う。(記事:湯本愛 写真:齋藤さおり)

CAFE BY & BY
東京都世田谷区若林4丁目26−9
COFFEE STAND 08:00 - 18:00- 不定休
BAR 20:00 - 4:00(都の要請に従い変動します)- 不定休

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