
ゲームと走る記憶と、写真と

こうやってみると、43歳ってどんなだろうと。いや、今年は44歳になるのだろうと。明らかに自分がみてきた、おっさんよりは、ましなカーブを描いているような気がする老化の仕方に、まずは老化を意識することから始まるんだなって思うのであった。
知り合いの美容部員さんは、いろんなアドバイスをしてくれたあとに、最後一言「ま、表情じわとか年齢にそって自然にある皺って個人的には好みだけどね」と。
僕もそう思う。自然な表情には、皺が必要なのだ、生き物には。

朝の10時にゲーセンへ行った。誰もないフロアで千円札を両替する。あのときの感情がごごごと湧いてくる。高校生のとき、学校に行かないで全く同じことをしていた。
朝イチのゲーセン、誰もいない、千円、両替。それがなくなるまで、1つのゲームをずっと続ける。運が悪いと1時間。今は、デイトナUSA2をやっているし、聞いている。ハンドルを握りながらあらためて思う、当時僕はゲームをしにいっていたんじゃない、ゲーセンには、音楽を聴きに行っていたのだと。
もうドライブゲームをする必要はない、だって首都高を運転することは、それと全く同じことなのだから。700円。通行料を払えば、埼玉や神奈川を掠めるあたりまで、縦横無尽にぶっ飛ばせる。夜だったら、同じ様な輩がひっきりなしに突っ走っている。みんな同じなんだ、あのときの感覚でいま道路を走っている、いや、夢の中をもう一度走りたいのだ。

意外とゲームには一途で、一つのゲームばっかりやっていた。今回もそう、上級のコースを徹底的に頭に入れる。そのために何度も何度もコースを走り込む。
ドリフトの具合は、ブレーキ加減は。その一方でステージのデザインに見惚れている。コンテナ埠頭を横切り教会の鐘のが鳴り、高層ビルの谷間を駆ける。360度のカーブを下り、平原を抜けて街に戻る。どこかの誰かの思いを目で、耳で、そしてハンドルを握る手で受け止める。映画のようにただ座っているだけじゃない、ゲームは自分が五感でその世界と対話をするのだ。

そんな情報の渦の中、残念なことに集中力は長くは続かない。これは老化じゃない、同時から続かない、40分。そこからは時間が過ぎるのが遅い、時間あたり理解効率が落ち、ダラダラしてくる、だから、お手洗いで手をあらって、帰路に着く。もうちょいできたんだけどな、ってちょっとした不完全燃焼でもありながら。
離婚しても父は、毎週僕に会いに来てくれた。土曜日の18時半頃。ころころ変わるドイツ車に乗るのが好きだった。外装も内装も、シンプルで整ったデザイン。ドアを開けるときのノブのクリック感や、閉めるときの重みが好きだった。守られている、ドアの開け閉めは、デザイナーと対話する瞬間なのだ。
そんな父と回転寿司にいき、ネギトロを10皿、ここでも僕は一途だ。そしてバイパス沿いのセガワールドに行き、ゲームを少し。父と僕は違うゲームをやる、時折、メダルゲームを一緒にやることもあった。その足で本屋さんに行き、二人で立ち読み。父は車、僕はゲーム。永遠に二人で立ち読みしていられた。

21時を過ぎると、今度は温泉に移動する。そこにもゲームコーナーがあって、父が先に向かい、僕は1ゲームをしてからお風呂に。そして家に送ってくれた。僕はこの時間がとっても好きだった。
学業から解き放たれ(といってもなんにもしてないけど)、趣味だけの時間。親子の趣味の時間だった。塾、習い事が世界の何をおしえてくれるのだろう。僕はストリートファイター2にロシア民謡を、ブラジルの民族音楽を、そしてアユタヤの仏像をおしえてもらった(のちに、たまたま現地に訪れたり)。テコンドーや、古武術。いや、光学、風力の影響を受け、重力にならって、ふっとぶキャラの動きからリアリティを学んだ。

秋葉のゲーセンでそんなひと時の思い出を回想し、僕はその思い出のなかを走る。
端から見れば、ただゲームをやってるおっさんかもしれない。でも僕の脳みそは、そんな自分を創った過去を思い出す貴重な時間なのだ。だから、ゲームをやるな、と言わないでほしい。ゲームを創った人間は、おおよそどの親よりも賢いのだから。せめて、そのデザイナーたちと対話をせよ、と言ってほしい(と言うことが通じる子供はきっとゲームなんかには止まらないのだけれど)。
(写真・文:鈴木心)
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